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東京高等裁判所 昭和58年(ラ)360号 決定

抗告人

東京都昭島市長

皿島忍

相手方

乙山渡

乙山ハナ子

主文

原審判を取り消す。

相手方両名の本件申立をいずれも却下する。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は別紙添付の抗告状に記載のとおりである。

二原審記録によれば、次の事実関係が明らかである。

1  本籍・東京都昭島市中神町一、二三三番地、氏名・乙山渡の戸籍には(1)埼玉県深谷市大字西島一、四七〇番地から転籍、乙山渡届出、昭和四二年三月八日受附により新戸籍が編成された旨の、その戸籍の乙山渡の欄には(2)同人は乙山常次・サク夫婦の長男として昭和二年一一月八日東京都中野区相生町一番地で出生、父乙山常次届出、昭和二六年八月三〇日同区長受附、同年九月三日送付入籍した旨の、乙山ハナ子の欄には(3)同人は昭和五〇年三月一四日乙山渡と婚姻届出、東京都昭島市玉川町四丁目九七四番地上田ハナ子戸籍から入籍した旨の各記載があつた。

2  右戸籍の事務管掌者である抗告人は、東京都入国管理事務所長から昭和五一年八月一〇日付で、右戸籍に記載されている乙山渡は朝鮮国籍の金○○であつて、同人の日本戸籍への就籍は虚偽又は錯誤に基づくもので法律上許されないことを理由に、戸籍の訂正を相当とする旨の通知を受けた。

3  そこで、抗告人は昭和五二年一月一八日付で東京法務局八王子支局長の許可を得たうえ、乙山渡が朝鮮国籍の金○○であることを前提として、前記戸籍の(1)の記載を抹消したうえ「転籍無効につき昭和五二年一月一八日付許可を得て同月二一日消除」と、同(3)の記載を抹消したうえ「婚姻による入籍は錯誤につき昭和五二年一月一八日付許可を得て同月二一日消除」とそれぞれ記載し、これに基づいて関連戸籍の記載も訂正された。

4  相手方両名の本件申立ては、国籍や身分関係に重大な影響を及ぼす戸籍の訂正は確定判決に基づいてすべきであつて、戸籍事務管掌者である市町村長が職権ですることは許されず、抗告人の右戸籍訂正に関する処分は違法であるとして、抗告人に対し戸籍の記載を旧に復するための措置を採るべきことを求めるものであり、原審判はこれを全面的に認容したものである。

三ところで、違法な行政処分に対しては、一般に、行政訴訟によつてその取消し・変更を求めることが認められているが(裁判所法三条一項、行政事件訴訟法)、戸籍法は、戸籍事件に関する市町村長の処分に対する不服申立てについては、その性質上、これを家庭裁判所の管轄とするのが適当であるとする見地から、一般の行政処分に対する不服申立てと異なり、戸籍事件について市町村長の処分を不当とする者は家庭裁判所に不服の申立てをすることができる旨を規定している(同法一一八条)。しかし、一方、同法は、戸籍の記載が不適法又は真実に反している場合において、これを改めるには戸籍訂正の方法によるべきものとし、その手続の詳細について規定しているところ(同法二四条、一一三条ないし一一七条)、この戸籍訂正に関する規定は、およそ戸籍の記載を変更するすべての場合に適用されるのであつて、その記載がされるに至つた経緯の如何を問わないと解すべきである。そうだとすれば、市町村長の職権による戸籍訂正(同法二四条二項)がその限度を超え、違法である場合において、これによつてされた戸籍の記載を元通りに改めるのも戸籍訂正の手続によるべきであり、この場合、市町村長の右処分につき同法一一八条の規定に基づく不服申立ては許されないと解するのが相当である。

本件についてこれをみるに、相手方両名は、抗告人のした前記戸籍訂正に関する処分は違法であるとし、抗告人に対し戸籍の記載を旧に復するための措置を採るべきことを求めるものであることは前述のとおりであり、その申立ては戸籍法一一八条の規定に基づく不服申立てにほかならないから、申立て自体不適法といわなければならない(なお、相手方両名において、本件訂正の結果による戸籍の記載が不適法又は真実に反するとして、その是正を求めるには、戸籍法一一三条の規定による戸籍訂正申請又は国籍存在確認の確定判決を得たうえ、同法一一六条による戸籍訂正申請によるべきである。)。

四よつて、相手方両名の本件申立てはいずれも不適法であるから、右に反する原審判を取り消したうえ、これを却下することとし、主文のとおり決定する。

(岡垣學 大塚一郎 川崎和夫)

抗告状〈省略〉

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